●アンサンブルって?

 「アンサンブル」と聞いたときに、みなさんはどのような形態を思い浮かべますか?一般的な音楽教室や学校教育では、教育用の簡易楽器(ピアニカなど)で一緒に弾いたり、ハンドベルなどで簡単なメロディーをつなげたり、同じメロディーを100人くらいで一斉に弾いたり、耳慣れたアニメソングなどを電子オルガンや簡単な打楽器で合わせたり・・・・・それらをもってアンサンブルと呼ばれています。ピアノ教室ではアンサンブルと言えば連弾のことを指すのが一般的です。仮に弦楽器の教室を併設していても、弦の生徒とピアノの生徒が一緒にアンサンブルを組むことはありません。室内楽曲やオーケストラなどの曲は、楽譜すらないというのが一般的です。当教室で言う「アンサンブル」とは、オリジナルの作品を中心に、チェンバロを使ったトリオソナタや、弦楽四重奏、ピアノ三重奏など、また、ヴィヴァルディやチャイコフスキーなどの弦楽オーケストラの曲などを指します。

  
 
年長オーケストラの練習風景      年少オーケストラの練習風景 

    
  
学校でも扱っているリコーダーでも、教室ではオリジナルのリコーダーカルテットなどが主流です。子供でも本物の音楽に触れさせたいというのが私どもの考えです。ですので、楽器に関しては、子供用の分数コントラバスを使い、各教室にチェンバロを置いて、子供たちが実際にオリジナルの楽器で演奏できるように配慮しています。

   
  チェンバロのパート練習     リコーダーと通奏低音のアンサンブル

更に、「プレオーケストラ」といって、3つの音を習ったらもうオーケストラの伴奏でメロディーが弾けるというカリキュラムがあります。習い始めて間もないまだじっとしていることもままならない年齢の小さなお子様も、ちょっと年上のお兄さん、お姉さんに面倒をみてもらい、いつのまにか落ち着いて舞台に立てるようになっています。
                        
    
プレオーケストラ練習風景   
プレオーケストラ発表会での演奏

また、「ミニプレ室内楽」と呼んでいる3歳から6歳くらいを対照とした少人数のアンサンブルレッスンもあり、それぞれの生徒さんに合った段階の曲で、お友達と呼吸をあわせたり、挨拶の練習をしたりしています。

  幼稚園生の室内楽

それを卒業すると、「プレ室内楽」に進み、いよいよコレルリやハイドンなどの小曲にチャレンジです。それぞれのお子様の成長に合わせて段階的にレベルアップして、「室内楽」に進みます。オーケストラは年少オーケストラ、年中オーケストラ、そして年長オーケストラと徐々に難しい曲にも参加できるようになっていきます。ヴァイオリンの生徒さんは、年少オーケストラの段階でヴィオラも習い、早期からヴィオラ譜も読めるようになります。その他に、「日曜日の練習に参加できないけれどアンサンブルをしたい」という生徒さんのために、レッスン内でアンサンブルを組むこともあります。

●どうしてできるの?

当教室の発表会を初めてご覧になった方々から「どうしてあんなに生き生きと楽しそうなのか?」「なんであんなにたくさんの曲を覚えられるのか?」といった声をよく耳にします。また、教育の現場に立っておられる方が見学にきたときには、「どうしておじぎがそろうのか?」「どうやって演奏のタイミングをぴったりにそろえるのか」といった質問もよく受けます。当教室の芦塚メトードでは、子供たちが心から音楽を楽しみ、同時に確実な技術を身につけていくシステムと指導法があります。オーケストラと室内楽のレッスンでは、半年かけて同じ曲目を同じメンバーで練習しています。その中で子供たちは(本人たちは気づいていませんが)さまざまな角度からの教育を受けています。その全てをここでご紹介することはできませんので、アンサンブル教育の目的やメリットについて少しお話したいと思います。

●心の教育

私どもがアンサンブル教育を重視するには、それなりの理由があります。まずひとつは、子供同士の人間関係の結びつき、特に年齢の違う子供同士の連帯感などを身につけるのにとてもよいということです。年齢や技術レベルの違う子供同士が、同じひとつの曲を一体となってつくりあげていく中で、おもいやり、協調性、責任感などが身につきます。しかし、これもただ一緒に同じ曲を弾いていれば身につくかと言ったらそうではないのです。指導する側にきちんとしたカリキュラムがなければただ一緒に弾いただけで終わってしまいます。少し年上のお兄さんやお姉さんが、年下の子の面倒をみられるように教育するには、指導者側は、自分が直接教えるよりも何倍もの配慮や準備をしなければなりません。教室に入ってきたときにまず靴をそろえるところや、かばんを所定の置き場所に収めるところなど、ちょっとしたことを年下の子に教えさせることから始まり、曲の内容に関しては事前にレッスンで難しいところを練習しておくといった準備なども必要です。また、アンサンブル練習の合間には、おやつタイムを設けています。

おやつタイム

おやつタイムは、ただ単に休憩をするといった意味ではなく、「同じ釜の仲間」という連帯意識を育てたり、食べ方のマナーを覚えたりといったちゃんとした教育の目的があります。上級生になるにつれ、おやつの準備や、準備ができるまで外で遊んでいる子を監督したり、みんなが一緒に遊べるようにまとめたり・・・・・そういったことができるようになってきます。やがて、自然と自分に自信がつき、責任感やおもいやりの心が育つのです。現代の学校教育や塾などの競争教育の中では、子供たちが本当に心を開ける場所や友達を見失いつつあります。世代の違う子供同士が一緒に遊ぶ姿は、今では本当に珍しいことになってしまいました。当教室のアンサンブル教育で培われたおもいやりや責任感は、子供たちの心の一生の宝となってささえてくれるに違いありません。

●上手になるわけは?

アンサンブル教育は、技術面にも大きな利点をもたらします。個人指導ではなかなか身につきにくい、聴きあって合わせる能力、微妙な音程の聴き分け方、暗譜力、所見力、集中力・・・・・などなどです。また、手首の使い方などの忍耐力を要する基礎練習など、一人では厳しすぎると思われるようなハードな練習も、友達と一緒に練習することでこなせてしまいます。上級生と一緒に練習することで引っ張られたり、目標になるお兄さんやお姉さんやお友達などが目の前にいることで、励みになりがんばれるといった利点もあります。上級生にとっても、下級生を指導することで常に基礎をフィードバックすることができます。自分は弾けても、いざ教える立場に立ってみるとよく分かっていなかったといったことに気づかされることもあります。本当に理解できていることしか教えることはできないからです。また、ソロの子が落ちたらすぐコンサートマスターがソロパートを弾いて助けたり、先生が手をたたいたら、曲が切れないようにパートを交代したり・・・・といった技術練習もアンサンブルならではの練習です。特に「暗譜」に関しての指導メトードは、あらゆる音楽教室や音楽学校にも存在しないようです。ずっと当教室で習っている生徒さんにとっては(暗譜できるということが)当たり前のようになってしまいますが、これも芦塚メトード独自のカリキュラムなのです。プロを目指して勉強している方や、或いはプロとして演奏活動している方でも、暗譜に関しては一番頭を悩ませているようです。よく音楽を指導している先生や、プロの方々が、「たった一曲を半年かけて勉強させても生徒が全然曲を覚えてくれないのに、どうしてここの生徒さんは短期間でそんなにたくさんの曲を覚えられるのですか?」とか、「私はとっても暗譜が苦手なのにどうしてこの教室の子供たちはそんなに簡単にしかも何曲も覚えられるのですか?」という質問をうけます。暗譜についてもあらゆる指導方法があり、生徒さんたちはいろいろな角度からいろいろな方法で暗譜のアプローチをしています。しかし当の本人たちは「みんなと遊んでいる」としか思っていないというのも芦塚メトードの特徴です。遊びながらいつのまに記憶力がついてしまうのです。(その内容をここで詳しく説明するには大変なページ数を必要としてしまいますので、詳しく知りたい方は、「記憶について」という芦塚先生の論文をご覧ください。)オーケストラや室内楽の練習にはそういった斬新なアイディアで皆と楽しみながら高度な技術を身に付けられるありとあらゆる方法が網羅されているわけです。

一般的にアンサンブルは指導するのが最も難しいと言われています。よほどの指導技術がないと「楽しく上達する」ことはありえないのです。「アンサンブルは子供には無理」と考えられ、音楽大学でも優秀なトップの数人の生徒がせいぜい大学の4年間に1曲できるかできないか、といった程度です。日本の音楽教育では音楽を専門的に勉強していても、室内楽の醍醐味を味合わないまま終わってしまうというのが現状です。

●伴奏について

アンサンブル教育を重視する芦塚メトードでは、「伴奏」もまた重要な分野としてとらえています。どういうわけか日本では一般的に、伴奏について非常に軽く扱われる傾向があります。「しかたなく伴奏をしてやっている。」とか、「ソリストになれないから伴奏者になる。」とかいう人が、日本のピアニストの中には結構いるようです。しかし、ヨーロッパでは、伴奏者はソリストとは全く別のジャンルに位置しています。日本の音楽大学にはありませんが、ヨーロッパでは「伴奏法」という正課があり、プロの伴奏ピアニストをめざす人たちが、いろいろな伴奏に要する技術の習得に励んでいます。世界的に有名な伴奏ピアニストもいます。彼らは伴奏に対してプロとしての誇りを持って演奏活動をしているのです。「伴奏」は、ただ上手にピアノが弾けるだけではつとまりません。常にソリストの音に注意をはらい、ソリストの意思を感じ取り、ぴったりとついていくという技術が必要です。一般的には、子供がお友達の伴奏をするということは殆んどありません。

当教室の発表会では
           原則として年上の子が伴奏します。


それは、伴奏を教えるにはピアノの先生が相手の楽器についてもある程度の知識がないとできないからです。また、ピアノを弾く技術だけではなく、合わせのタイミングなどの指導に先生の技術が必要となるからです。大人同士で合わせる場合では、お互いが曲のイメージを知っているので、なんとなく合わせるということができます。しかし、子供の場合には、その「なんとなく」という言葉が存在しないのです。当教室の伴奏の指導では、ソリストが落ちたり迷ったりしたら、即座にソロパートを弾いてあげて助けたり、1小節とばしてしまったら伴奏も一緒に1小節とばしてあげたり・・・・そういった一流の伴奏者でもできないような技術を指導して、的確性を養います。伴奏は、ただソリストについていくだけではなく、ささえてあげる演奏が大切なのです。ですから当教室では原則として年上の子が年下の子の伴奏をします。そういった伴奏の極意を指導することで、ソロ楽器であるピアノの生徒さんも高度なアンサンブル技術を身につけることができるのです。何も知らない素人さんは、「ソロより伴奏の方が簡単だ。」と思いがちです。音楽の道をめざす音大生でさえも「伴奏の練習なんかしている時間があったら自分のソロを練習していた方がいい。」などと言っているのをよく耳にします。伴奏の奥深さや大切さを教わったことがないのだから、致し方ないと思うしかありませんが・・・・。

●どうしてコントラバスを習うの?

ピアノを専門に勉強したい生徒さんには、芦塚先生は伴奏の他に、コントラバスをすすめています。それは、ピアノは他の楽器と違って、一人オーケストラとも言え、一人でソロや伴奏を演奏することができるという利点があるが故に、独善的になりやすい楽器でもあるからです。また、伴奏や連弾はソロと伴奏に二分され、力関係で、どうしてもどちらか一方がリードしてしまいがちです。その為に真の意味では、アンサンブルになりにくいと言えます。芦塚先生はよく、「2人はアンサンブルとは言えない。3人からはじめてアンサンブルになる」とおっしゃっています。ピアノの生徒さんは、どうしてもメロディーが主体になってしまい、左手の動きがおろそかになりがちです。芦塚先生の冗談の一つに「左を制するものは世界を制する。」という言葉があります。ピアノを本当に勉強するためには、低音の動きをマスターすることが必須です。そのために一番勉強にな
る楽器としてコントラバスが理想的です。

中学生が弾く2分の1コントラバス
                         小学生が弾く10分の1コントラバス


ところが、コントラバスは巨大で、子供たちは手が広がらず、学校のオーケストラなどでは全部の音を人差し指1本で器用に弾いていました。ですがそれではただしいポジションや構え方などを習得できません。そこで、私達の教室では分数のコントラバスを長年かけて探しだしました。教室にある1/10と1/2のコントラバスは、特別に製作していただいた楽器です。これによって子供たちは最初から正しい指使いや姿勢でアンサンブルの練習に加わることができるようになりました。



●無理なく上達

一般のご父兄の方が当教室の発表会をご覧になると、「みんなとても上手でとてもうちの子はついていけない。」と思ってしまう場合が多いようです。ですが、ご心配には及びません。どの生徒さんも初めから難しい曲の中に入ったり、何曲も発表会で出演したりしているわけではありません。そこに至るまでにも無理なく上達できるステップがあります。年齢の小さなお子様で、初めてアンサンブルに参加される場合は、「プレオーケストラ」というカリキュラムがあります。これは、楽器を習い始めたばかりでも、3つの音が弾けるようになれば参加できるオーケストラです。もちろんそんな曲は市販されていませんので、我が教室の大先生にお願いして(芦塚先生は作曲の世界コンクールで1位という経歴の持ち主でもあります。)作曲していただきました。これらの曲により、上手なお兄さんお姉さんにオーケストラ伴奏パートを弾いてもらって、初心者の小さなお子様が3つの音でメローディーパートを弾くという楽しい楽しい合奏が実現しました。(すでに何回か発表会でも演奏しています。)また、室内楽曲についても、子供が弾ける曲は極稀にしか存在せず、コレルリやクレンゲルといった特定の作曲家が何曲か書き残しているのみです。そして困ったときの大先生頼み!「子供のためのピアノ三重奏曲集」として、毎回の発表会でかわいらしい三重奏を生み出していただいています。また、「ミニプレ室内楽」と呼んでいる3歳から6歳くらいを対照とした少人数のアンサンブルレッスンもあり、それぞれの生徒さんに合った段階の曲で、お友達と呼吸をあわせたり、挨拶の練習をしたりしています。

また、日曜日にどうしても通えないお子様は、発表会前の何回かの合わせでアンサンブル出演をすることもできます。この場合は、先生かアンサンブルに慣れているお姉さんなどが伴奏する形をとって、まだアンサンブル技術が充分でなくてもピアノ三重奏などを体験することができます。先生はそれぞれの生徒さんの教育目的やキャパシティーを充分に考慮した上で曲目やグループを決めています。一つ一つのステップを踏んだ上で、本格的な楽オーケストラや室内楽に入っていくことができます。



             まとめ

現代の教育では、競争教育の問題や、縦のつながりが希薄であることが問題視され、他人に対してのおもいやりや、生きがいを見失ってしまう子供たちの問題がよく取り沙汰されています。そういったいろいろな問題は芦塚メトードを正しく理解できた人の中には全く存在しません。確かに子供たちの中にはソロタイプの子も数多く見受けられます。私たちはソロタイプの子供の個性をも否定するわけではありません。ただし、アンサンブルの勉強を続けながらのソロタイプの子供と、全く参加しないソロタイプの子供では、2〜3年後には明らかな技術の落差が出てしまうのは致し方のないことです。音楽技術の大半は、アンサンブルや室内楽の中でしか学べない技術も数多くあるからです。一人で学ぶには、大変な困難と忍耐が必要となってしまいます。「困難を乗り越えてはじめて音楽の良さが分かる」という考え方が、音楽を専門に学んでいる人達の90%は占めているでしょう。しかし、「困難を乗り越える」ということは、「どうしてもそれがやりたい」という気持ちがあって初めて言えることではないでしょうか?いやいやながらやらされていて困難を乗り越えたとしても、達成感は感じることができるかもしれませんが、そのように学んだことは、決してその子供の身につくことはありえないのです。

芦塚メトードで楽しく学んでいる子供たちは、一見すると「遊んでいる=怠けている」というふうに思われてしまいがちです。音楽や他のことでも、厳しさはもちろん必要です。何かを続けていく上で、子供たちは必ず厳しい壁に直面するときがあるでしょう。しかし、そのときに「嫌い」で壁に当たるのと、「好き」で壁に当たるのとでは、その状況は全く違います。その壁が辛くて苦痛なものに感じてしまうか、どうしても乗り越えたい目標として憧れとなるかは、そこの違いなのです。「好き」であることは、「音楽を大切に思う心」に成長し、やがては厳しさに立ち向かっていける強い心の土台となってくれます。「好き」と思う気持ちをもって努力を続けた場合、その努力が向き合っているものに対する価値感を育てます。価値観を見出すことができるようになると、本人の心の中にプライドが育ちます。しかしながら、「嫌」という気持ちで向き合った努力では、それらを見出すことは決してできないでしょう。それ故に私達は「音楽を大好きにさせること」がどれだけ大切であるかを痛感しています。その大切さを親御さんが理解し、芦塚メトードが子供たちの心に浸透し、また一人でも多くの方にこのメトードを役立てることができるよう、心から願っております。

                                          文・・・・斉藤純子